中年レーサーのすすめ

今年は、雪が多いと思いませんか。一度は、東京でも立ち往生するクルマが出るほどドカっと降った日もありましたが、自動車通勤をしている僕には意外にもまるで影響なし!何故ならば、今足として乗っているアルファが、チューニングパーツの開発用に昨年導入した159Q4だからなのです。このクルマ、アルファらしくプチ問題児なのですが、4WDということもあって予想外?の大活躍。少なからず愛着が沸きつつある今日この頃です。

早いもので来月には、モータースポーツシーズンも開幕。この時期は、プロチームの開発業務に携わっていることもあり、夜も寝ないで仕事となることもしばし...最近「あー、そろそろ楽な仕事に移りたいな」と考えることもあるのですが、自分の人生の半分以上を過ごしたレース活動から離れるのは、仕事上難しいかもしれません。それに、最近ではアマチュアレースに参加されているお客様が、工場へ足を運んで頂ける機会も増えており、現在もF4マシンをセッティング中です。

今も忘れることはない、小学生4年生の時に将来の夢として書いた作文がある。「レーサーになりたい、ダメならタクシー運転手でもいいか・・・」、16歳でロードレースを始めて以来、走ることが何よりも大好きで、1/1000秒に拘り、「継続は力なり」を信念に一心不乱、途中だいぶ遠回りもしたけどレーシングドライバーとして階段を這い上がったような気がします。そして、ふと気付けば立派な中年になっていました。でもそんな経験が、昔は人や社会の役に立つ仕事になるとは思いもしなかった。それが今では、ニューマシンの開発やお客様へのアドバイスやメンテナンスになくてはならない大切な引き出しとなっている。一生懸命が一番だ、長かったが納得がいくまでレースができて本当に良かったなと最近思う。

ただ、その一方で忘れられない幾多の不幸もあった。2輪時代には菅生、4輪へ転向してからもF3時代に富士、グループCではルマン。そしてF3000でも鈴鹿でチームメイトや先輩、そして友人が何人もアクシデントから亡くなったこと。とくに記憶に残っているのは、ベルギーのスパフランコルシャン24時間耐久レースへトヨタチームからスープラで出場していた時のことだ。F1も開催されている難攻不落で有名なスパは、故Aセナにして最もチャレンジングなコースだと言わしめるだけのことはあった。急勾配のストレートエンドから進入する高速のS字コーナー、オールージュでは、これまで何人もの勇敢なプロドライバーが事故死していた。実際に走ってみると、恐怖感120%、チームの誰もが5速全開のままで駆け抜けることは出来なかった。そんな時、1人のベルギー人ドライバーが言った。「俺はアクセル全開で行けたよ」って。嘘だろと思いつつも、よく話を聞いてみると、同じトヨタのドライバーであったが、ベルギートヨタからのエントリーで、マシンがセリカの2リッターNA仕様だったのだ。パワーが低いのでスピードが乗らないことから全開で行けたのだ。チームは日本、ヨーロッパの混成で5台15名のドライバーと大所帯、ベルギーチームの方は、誰がどのマシンに乗っているのか最初良く分からなかった。

彼は、ディーラーのオーナーでドライバーでもあった。でも、本業は社長ということで、サポートする2名のドライバーは、腕のいいプロだったと思う。でも、とてもレースが好きらしく、スパについても詳しかった。ここのコーナーは、こう走った方がいいとか、あそこのブレーキングは、アウトサイドが滑りやすいから気をつけるんだ。とか、ハンバーガーを頬張りながら親切に教えてくれた。そして最後に「夜のオールジュはとても危険だから注意しろ、俺は2名のプロに任せて夜は乗らないんだ」とも言っていた。

僕の乗るスープラは、チームメイトのベロフがドライブ中にトラブルが発生。コース上に止まったものの、ドライバーの彼女がチューをしながら密かに工具を渡す(コース上でドライバー以外の人間が手助けすることは禁止なのだが、ヨーロッパらしいというか、彼女からチューをオフィシャルは咎めなかった)秘密作戦が成功。そのおかげで無事修復、コースへ復帰していた。そして、順位を下げながらも夜を迎えていた。

ナイトセッションは、ルマンで慣れていたので不安はなかったが、確かにオールージュだけは、視界が悪いこともあり、スピード差のあるマシンが混走していることが大きなリスクとなっていた。

レース開始から10時間が経過。深夜に入り、休息の為ドライバー用のトレーラーハウスで食事を取っていた時のことだ。急にコースが明るくなり、レスキューのサイレンが鳴り響いた。オールージュで炎上、アクシデントだ。コースにはペースカーが入りレースをコントロール。その時間はかなり長く続いた。

しばらくすると、マネージャーがトレーラーに走り込んで来て言った「ベルギーチームのドライバーが事故死したので、チーム全体としてレースから撤退する」と。そして、もっと驚いたのは、死んだのはあのオーナードライバーだったのだ。夜は乗らないといっていたのに・・・

レースにはアクシデントのリスクが伴う。でも僕の経験では、アマチュアとして走るのであれば99%それは防ぐことが出来ると思う。まず第一に大切なことは、必要以上にリスクを犯さないこと「夜のオールジュはとても危険だから・・・俺は乗らないんだ」そうしていれば彼も死ななかったはずだから。レーシングアクシデントの50%以上はマシントラブルからだ。だからメンテナンスはきっちりやってほしい。そして、ドライビングミスによる事故もロールケージやレーシングスーツといった安全対策で怪我を50%以上避けることができるはず。そして、ドラテクはプロに習えば事故の確率はさらに下がる。ただ、どうしても数パーセントのリスクは残るだろうが、それは体を張る競技には共通する問題だ。時には運を味方につけることも必要なのかもしれない。

今年もアクシデントによる不幸が起きないことを強く願う次第です。

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