新たに開発したマフラーの加速音量試験を見届けるために、久しぶりに試験場へ出掛けた。製品を車検対応とするためには、ここで排気音量を計測し、基準値以内に抑えられていることの認証を受ける必要があるからだ。音量規制は現在販売されている新車はもちろんのこと、我々のような部品メーカーが造る製品に対しても同様に課せられる規格。抑えればことが済むファミリーカ―にとっては大きな問題にはならないが、スポーツモデルにとっては頭痛の種となる。
理由は、排気効率と音量は密接な関係にあり、パワーを最大限引き出そうとすると音量は必然的に増えてしまうからだ。相反する問題の解決は容易ではない。また、サウンドもスポーツマフラーの魅力なだけに、妥協なき逸品を造り上げるには、数多くの試作を繰り返すことになる。
試験は、時速50km/hからアクセル全開、フル加速のまま計測地点を走り抜ける際の音量を計測するのだが、計測されるのは排気音だけではなく、エンジン音、タイヤノイズなども加わるので複雑だ。さらに、マニュアルであれば3速、セミオートマはメーカーが設定したキックダウンモードによるので、コントロールユニットのプログラム次第で試験条件下の音量制御は難しいことではない。日々ECUチューニングの開発を手掛けている立場としての推測でしかないが、一部のスポーツモデルは高回転領域で甲高いエキゾーストノートを街中で奏でることができる理由かもしれない。
加速する地球の温暖化を止めるべく、自動車は電動化へシフトしている。しかし、その核となる電池の大量生産による大きな環境負荷が問題となっており、確実に温暖化を減速させるには、革新的な蓄電池が現実的なコストで供給されることが必然だ。しかしながら、現段階では明確な道筋が見出せないまま脱炭素=内燃機関の廃止で先進国は進んでいるという矛盾がそこにある。水素、バイオ燃料もしかり。製造、原料確保に大いなる公害が伴うだけに、現時点では基軸として代替えに価しえない。将来的には、エネルギーの高効率化が進むことは間違いないだろう。だが、タイムリミットに間に合うかどうかの瀬戸際にあることは間違いない。
では、技術革新が完結に至る過程においてできることとは何か、一考すべきは日本古来より伝わる倹約精神にあるのではないだろうか。電動化へ舵を切り、内燃機関を廃棄、代替えしても炭素排出を抑制できないのであれば、稼働時間が長く、使用可能限度が迫る業務車両から順次切り替え、移動手段を徒歩、自転車に公共の交通機関を最大限に活用し、自家用車の利用を最小限に抑える。趣味のクルマは、留め置いて眺めながらのランチもわるくない。それでも、調子を維持するために年に1、2回満タンにしてドライブを楽しむことが許されれば良としょう。しかし、ここで環境破壊を止めなければ、取り返しのつかない未来が待ち受けているという現実。倹約が、経済成長ありきで拙速に進む非効率的な電動化よりも、環境負荷を抑えることに貢献する手段に成り得るということを、そして日々の日常生活においても倹約の意識を心にとめておきたい。
師走の日々、潤沢な物資に溢れる平和な日本で暮らしていると、明日も知れないという不安、飢餓を想像できる人は多くはないかもしれない。今年の最後は、紛争下にある方々、温暖化に翻弄されている野生動物のために、成すべきことへ思を巡らせながら新年を迎えようと思う。