これまで様々なクルマを色々なロケーションで運転してきたように思う。もう勘弁してよってくらい走った。レーシングドライバーしかり、新型自動車やタイヤ、部品といったプロトタイプの開発テスト。また、自動車評論家としての機会も少なくなかった。もはや走行距離にいたっては記憶できないほど膨大である。でも、この経験が自社ブランド製品テストおける解析、開発能力の基盤となっており、今とても重宝していることは間違いない。ようやく完成した159、ブレラ&スパイダーの車高減衰力調整式サスペンションシステムの開発にも大いに役立っている。今は完成度の高さにホッと胸を撫で下ろしながら、市販価格の検討という最後のお仕事を進めているところなのだ。
先日、自動車誌のテストでGTRをはじめとする国産スポーツモデル多種に乗った。今ではこういったスポーツモデルを走らせても、特別に気持ちが昂ぶることもなく、ただただ粛々と冷静に分析するわけだが、新しいクルマのメカニズムやシステムに対する興味は以前より増しているように思う。実はGTRには、以前サーキットで乗ったことがある。だが、全開で走った印象はそれほどインパクトの強いものではなかった。というのも、レーシングマシンに近いスピードと電子的なデバイスによる安定性の高さには驚かされ、スーパーカーとして間違いなく世界レベルに達していることは分かった。だが、静かに何事もなかったようにクールに疾走するタッチは、実はレーシングカーとは全く異なる世界。要はアドレナリンが湧き上がるようなエモーショナルな走りを感じなかったのだ。そう、アナログ世代の僕にはバーチャルゲームと大差ないように思えたのかもしれない。つまり、ファイティングスピリット、スピード感だけを求めるならカート(トップカテゴリー仕様に限る)の方が、大分安いし面白いんじゃないの?と短絡的に評価していたのだ。
だが、日常の足として2日間も乗ってみるとGTRの別な顔が見えてくる。そして、カテゴリーが異な159を比較の対象にしたりして…これがオレカブランドの開発に大いに参考となるのだが...。
スポーツカーはデザインが命、インテリアも重要だ。個人的にはGTRの迫力満点の斜め後方からのショットは悪くない、そう思うのだが、他に惹きを感じない。とくにインテリアは・・・・。これに対して159は、リアトランクの造形、タイヤとフェンダーの位置関係以外は良いと思っている。インテリアデザインもOK!ただ質感はもう二つかなといったところか。ところが、走りのポイントとなるエンジン&ミッションにシャーシー、こいつは残念ながら価格以上に大きく開いている。GTRのエンジンは400馬力を超えるV6ターボだが、素晴らしいのはパワーだけではない。敏感なアクセルレスポンス、エンジン音も高回転領域ではタービン音とも重なりかなりいい音がする。そう、オレカチューンのGTA-Rのような音、レスポンスなのだ。ミッションにいたっては、ツインクラッチタイプのセミオートマなのだが、セレスピードとは桁違いに早いギアチェンジが可能なことと、動作感がレーシーなこともあり、意外だが、サーキットで乗るよりも街のりの方が楽しいのだ。シャーシー性能は、書き始めると止まらなくなるのでやめておくが、一言でいえば量産車の領域を越えているということ。ダンパーはビルシュタインがチョイスされているが、これは水野監督の拘り。ちなみに159用に開発したオレカ減衰車高調整式サスも同様にビルシュタインベースだ(師弟関係の影響大かな)。
実は、ダンパーのセッティングは料理と似ているところがある。要は素材がとても重要なこと、そして生かすも殺すもコックの腕次第となるわけで、ビル製であれば全部OKというわけではないということだ。組み合わされるスプリングのレート、素材、形状、自由長、そしてマウントetc。ダンパーの減衰設定は、ストークに対するスロー、ミドル、ハイの各スピード領域において微妙に調整するのだが、ここで最も重要となるのが人間の調律感性。もちろん数値的なベースを計算から導き出すことはできる。だが、それがピタリと当てはまったケースを僕は見たことがない。また、ストライクゾーンにはまったサスを評価することは簡単だが、ストライクゾーンへ導くことは非常に難解な作業なのだ。結論から言うとGTRのサスはいい。曲る、止まる、乗り心地。スポーツカーは、この相反するテーマを妥協するのではなく、協調させなければならないのだから。
159に乗り換えると、エンジンのレスポンスに???マニュアルミッションはシンクロがもう一つ、クイックシフトを受け入れてはくれなーい。シャーシーは、あちらこちから聞こえてくるキシミ音(新車なのに何とかして)もあってもう一つ締らない感じが・・・。サスも乗り心地は悪くないけど、もう少しコーナリングで踏ん張ってほしいかな。まあ、GTRと比べるからボヤキが出てしまうということにしておこうか...セダンとしては、ドライバーシートの居心地はとても良いクルマだし、多々あるウイークポイントも愚息ほど可愛いという見方もある。だからこそ、チューニングする意味も大きいわけで、エンジンのパワー、フィールは、エキマニと等長フロントパイプにスポーツ触媒、そしてマフラーの交換で大分良くなってきた。マニュアルミッションのタッチもオイルを幾つかテストして、良いマッチングを見つけたし、アクセルワークと比例せずレスポンスの悪さを隠す為に勝手に動く電動スロットルによる妙なエンジンレスポンスもコンピューターチューンでだいぶ改善したように思う。とはいえ、気になる点はまだまだ多々あり、まだまだチューニングの余地は多く残されていることは事実だ。それだけに、満足いくまで順次改良していこうと思う。
どうやら、GTRの話よりマイ159のボヤキが多くなってしまった。開発テストは日常走行も大事なので毎日乗っているのですが、ここは良くしたいと思う点がまだまだ沢山あるのも事実、またブログでボヤキを書いてしまうかもしれないな...