アルファロメオ4C vs. ルノーメガーヌRSトロフィー

2年前に欧州でデビューした4C。初期モデルにありがちな完成度の問題とされているが、日本へのデリバリーは、予定より大幅に遅れた。本国イタリアでもスタイリッシュなデザインの評価は高く、CFRPプリプレグによる軽量モノコックを採用したミッドシップスポーツとしては、破格の5万ユーロを切るのではと噂されたプライスも話題となった。しかし、マーケットへリリースされると、率直な評論家が多いヨーロッパでの評価は低迷。メカニズム、運動性能、そしてスポーツカーとしてドライバーの五感を揺さぶる走りの資質に欠けるとの意見も・・・何よりも気になったのは、同セグメントとなるロータス、ポルシェケイマンとの比較評価でつけられた差の大きさであった。

短い時間ではあったが、いち早く並行輸入された4Cをサーキットで走らせる機会に恵まれた。他人の評価を鵜呑みにはできない。百聞は一見に如かず、自ら走らせ、構造を考察してみないことには…

ファーストインプレッションは、FFユニットを反転してミッドシップへ搭載し造られたスポーツカーと共通する腰高のテイストが、4Cの走りにも色濃く表れていたこと。軽量モノコックの採用によって1050kgに抑えられた車体重量を実現していることによるシャーシーバランスは、その傾向をより顕著に示すことになり、スタティックでのコーナーウエイトは、ミッドシップならではの理想的な数値の範囲内にありながらも、モーションレシオは、主な重量物となる重心の高いエンジンの搭載位置が走りに大きな影響を受けることとなり、旋回時に発生する大きなロールによって内輪荷重が低下、ストロークの短いフロントサスは、ライトウエイトミッドシップらしい高いコーナリングフォースを維持するグリップを得ることが出来ない。さらに、そのままフル加速で脱出態勢へ移行すると、リアタイヤの接地感は乏しく、高速領域でもズルズルとスライドが起こるので、ミッドシップらしいトラクションを得ることも叶わない。

トラクション不足は、剛性感に欠けるリアサスのセットアップにようものと思うが、スムーズなサーフェイスでのスローコーナーでは、想定内のコントロール性を示し、フルカウンターでのコーナリングも難なくこなすのだが、バンピーな路面、特にセミウエットといった難しいコンディションになると、一転オーバーステア傾向が強くなり、とくに高速コーナーでは、リアタイヤのグリップが安定しないことから、アクセルワークに神経を使うことになる。さらに、標準装備のピレリタイヤの特性も影響しているのかもしれないが、速度を上げるほど軽くなるステアリングフィールの違和感。シャーシーのみならずエアロダイナミクスのアンバランスによる影響ではと思えたが、特に200kmを超える高速領域におけるコンタクトフィールのレベル低下が気になった。

また、リアに荷重の大きいミッドシップの最大の魅力となるブレーキング能力も、しかるべき後ろ髪を引かれるようなリアタイヤの効きが感じられない。リアブレーキを見て納得、FFと同程度の小ぶりなシングルキャリパーがそこにあった。日本での価格は、800万円を超えるが、パワーウェイトレシオは申し分ないものの、緩慢なエンジンフィールも含め、マシンとして完成度がコストに見合っているかどうか・・・されど、荒削りな仕上がりといった感が否めない初期モデルの4Cは、久しぶりに魅力的なエクステリアを纏うアルファのスポーツモデルだけに、今後の熟成を大いに期待したいと思う。

これに対して、ルノーが久々に放ったスポーツクーペとなるルノーメガーヌ3RSの印象は対照的。エクステリアは一新されたものの、シャーシー、パワートレインは先代モデルから変更はなく、踏み込んだチューニングでライバルを打ち負かすことを目指している。その性能の証明として、起伏に富み、長く複雑なレイアウトが特徴たるサーキットとして名高いニュルブルクリンクサーキットにおいて、FF最速を狙った特別仕様トロフィーをリリース。難攻不落のテストコースとして多くの自動車メーカーが開発テストを行っているニュル。ライバルモデルが刻んだ記録を破るという、格好の比較広告の大舞台ともなっているが、開発車両がマークしたタイムを市販車で出せる保証はないことのも事実。真に受けてはいけない。

トロフィーは、車体の軽量化。そして、サスペンションをコース特性に合わせてセッティングし、レーシングタイプのハイグリップタイヤを装着。これに排気系を改良してパワーアップするなど、ニュルにフォーカスを絞っている。結果、運動性能は狙いどおり向上、強力なタイヤグリップも功を奏し、ベースモデルより、コーナーリング脱出時のトラクションは、飛躍的に改善されていた。しかし、ターンインにおいては、シャーシー性能の限界を容易く超えてしまうことから、リアタイヤの内輪は路面とのコンタクトを失い、コーナリングスピードをスポイル。すると、電子デバイス(姿勢制御)が作動し、コーナリングスピードが低下してしまうので、スイッチオフで走らせる。すると、ハンドリングは弱アンダーから、ややオーバーステアへ移行するものの、手堅くまとめられたサスセットが功を奏し、非常にコントローラブルな走りを披露。腕に覚えのあるドライバーにとっては、操る楽しみを満喫できるはずだ。この走りは、斬新なルックスと共にメガーヌの最大の魅力といえる。

古いシャーシーながら、的を射るセッティングが与えられたメガーヌに乗ると、最先端のカーボンモノコックにミッドシップエンジンという最高のパッケージを与えられたニューモデルであっても、ドライバーを唸らせる性能を伴わなければ、所詮は張子の虎。コンセプトが運動性能を保証するわけではないし、エキサイティングな走りを示す証明にはならないということを、改めて痛感させられた。

そこで、工場に2台を並べ、対照的なマシンのメカニズム検証してみることにした。

まず、メガーヌRSトロフィーの注目すべきポイントは、樹脂製スプリングの採用や、2シーター仕様に変更するなど、拘りの軽量化。さらに、タイヤはセミレーシングを履き、ダンパーは、マニュアルで減衰調整が可能なオーリンズ社製を採用。ロールケージを装着すれば、即ワンメイクレース仕様となる。 しかし、強力なパワーと強固なサスペンションを支えるシャーシーは標準仕様のまま。高性能タイヤのパフォーマンスを100%発揮するには、ボディ剛性の向上とブレーキフィールの改善が必要と思えた。

これに対して4Cのシャーシー、パワートレーン、そしてブレーキの完成度は、良くも悪くも驚愕の連続。とくに、直進安定性に欠けるスタビライザーを含むサスのリセッティングの必要性。また、コスト優先に量産モデルから流用されたスペースに合わない電動ファンが、フロントのトランクスペースを奪っていること。さらには、モノコックとリアサブフレームの連結部など、華奢な造りが目に付く。エンジンの搭載位置も、ドライサンプを採用すれば、5cm以上下げられることは間違いない。そして、高速安定性の柱となるディフューザートンネルのデザインは良いのだが、信じられないことにギアボックスの冷却フラップが、左側のみトンネルを塞ぐように装備されており、空力性能を大きくスポイルしていた。これを見て、希薄な高速走行時の接地感が理解できた。そして、サイレンサーを持たないマフラーレイアウトを変更することよるパワーアップの余地は大きそうだ。

流麗なエクステリアとは裏腹に、リフトアップしてみるとキットカーのような造りが要所に見受けられる4C。そして、イメージリーダーとして実用性を捨ててニュルに挑むトロフィー。共に立ち位置は異なるものの、チューニングの素材としては非常に興味深いスポーツカーといえる。すでにいくつかの部品は製作に入っているので、今後リリースするオレカならではの発想と、数値に裏付けられた機能に是非期待して頂きたい。

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