わずか100馬力の115スパイダーが、500馬力のGT3RSより楽しい理由

すでに10年以上、目を引くスポーツカー(ニューモデル)に出会ったことはなかった。だが最近、久々に気になるスポーツカーが目に留まった。それは、かつてストイックに走りをだけを追求していただけのシンプルなポルシェを思い起こさせる911Rというモデル。そのコンセプトは、RRレイアウト911だけに存在する孤高の世界、特別な運動性を追求すること。ラグジュアリー路線に舵を切り、巷では有閑マダムの御用達SUVばかりが目立つ最近のポルシェにしては非常に興味深い。

8500rpmまで回るフラット6エンジン、そしてマグネシウムやカーボンによって計量化された高剛性のボディワークは、サーキット専用モデルとなるGT3RSをベースとしているものの、あえて6速マニュアルミッションを搭載。さらには、GT3RSより、さらに50kg軽量化するために、遮音材までも取っ払い極限まで減量、その車体重量は1370kgに抑えられているという。
 それでも現行の997ボディが大柄なことに変わりはないが、911Rには開発エンジニアの秘策として、ライトウエイトスポーツだったころの911らしい俊敏性を与える為に、7kgの重量増にも目を瞑り、あえてポルシェの先進技術の粋とさせるアクティブステアリングシステムを採用。猫も杓子も注目するニュルブルクリンクのラップタイムに軸足を置くスーパースポーツが多いが、911Rがあくまでもドライバーズカーに徹している証だ。
 個人的には、ストリートユースでサーキットスペシャに乗りたくない。それ故にノスタルジックな911Rに牽かれたのだが、残念ながら販売開始早々完売。その理由は、900台余りの限定モデルということが、投機対象となってしまったこと。それでも、911Rの発表は、昔を知るポルシェユーザーの心を鷲掴みしたことは間違いなく、普通に買うことが出来るGT3RSに乗ってみると、その価値がよく分かる。

先日、最新モデルのGT3RSがメンテナンスのために入庫したので、様々な観点から考察。結論としては 先進のメカニズムによるパッケージは非常に完成度が高く、サーキットでのパフォーマンスにおいて各方面から高評価を博していることが頷ける。しかしながら、ファクトリーから数百メートル走らせての第一印象を端的にいえば、大型のゴルフカートに乗っている感じで、ストリートでは面白くも可笑しくもない。また、チューンされたフラット6エンジンは、アイドリングから常用回転までウルトラスムーズに回るが、6000rpm以下では特別な躍動感はなく、今流行のツインクラッチによるセミオートPDKの動作も、ストリートでは緩慢なリアクションを示すことも多く、フラストレーションを覚えることも多々ある。

もちろん、フルスロットルで加速させれば、それなりのGを感じるし、パドルシフトを駆使しながらハイスピードでコーナリングをすれば高い潜在能力を瞬間的に垣間見ることは出来る。が、すこぶる高い安定性が齎す正確なコンタクトフィールは面白みに欠けるし、限界を超えた時の挙動もコントローラブルなので、ドライバーは仕事をするかのように、冷静にタイムを削り取る作業を行える。少し危ういくらいが楽しいと思う自分としては、良くも悪くもラップタイム競うサーキットスペシャルに開発されたマシンゆえのジレンマを感じる。まあ、フィールドをフォーカスしているクルマだから仕方ないのだが…

魅力的なスポーツカーに共通していること。それは、動力性能もさることながら、近所の小道を時速40km/hで走らせていても楽しめる、五感に伝わってくる特別な味わいがあるもの。それは、手応え、音、振動、視覚、匂いといった感覚を揺さぶり、満足感へと誘う導線となる。だが、最新のメカニズムを導入し、ライバルメーカーと常にサーキット最速を争うGT3RSのストリートにおける走りとは、無機質で存在感が希薄だ。これと対極にあるスポーツカーと感じたのは、同じ時期に入庫していた古いアルファロメオのスパイダーであった。

小柄でスタイル抜群、イタリアンスポーツならではの線の美しさがあり、ソレックスのツインキャブを装備するクラシックなツインカムエンジンは、コールドスタートの度に気を使いながら、火を入れると音だけは勇ましく吼えるものの、動力性能は現代の軽スポーツモデルにも負けそうなレベル。さらに、Hパターンの5速マニュアルミッションの頼りないシフトレバーを操り、およそスポーツカーのスタンダードからは程遠いグニャグニャのサスに乗せられ走り始めれば、毎回あちらこちらから起こる不穏な動作状況の確認に迫られることに…それでも100km/hも出せばスピード感満点に躍動感溢れる走りは、数字では図れない大いなる魅力であり、ガレージを後にして5分 もすれば、日々スパイダーへの愛着がより増すことだろうと思えた。

しかし、自動車の機械的な進歩は、この30年で飛躍的に進んだことを示す2台であり、30年前にこの大きな差が生じることを予測し得た物はいない。競争の原理は、時の技術革新を加速させる。ゆえにGT3RSの姿は究極の正常進化であり、後の30年後のスポーツカーがどうなっているかを考えると、非常に夢のある現実といえる。

現状維持は後退するということ。

アメリカの著名な企業の創業者の言葉だが、自分としても、ライバルをリード出来ているかどうかはともかく、仕事を進める上で常に意識している指針。昨日まで当たり前に使っていた物が新製品に取って代わり、それとともに消滅していった企業をいくつも目の当たりにしていることもあるが、社会、市場、技術革新の変化のスピードに対応出来なければ、企業の存続は不可能であることは日々痛感している。

自動車の進化とは真逆に、70年以上、日本の国家行政は必要な進化を何一つ成し遂げてはいない。この現状を、かつて没落の象徴として経済が低迷した80年代の英国に重ねてしまうのは自分だけではないだろう。80年代、ユーロへの加盟も頓挫した英国は、サッチャー政権の誕生によって、国民と共に身を切る財政再建を断行した結果、財政破綻を免れ、EUを再び牽引するまでに復権した。それでもなお、政治に参加し成果を得た経験を持つ英国民は、国際情勢の変化、格差是正に向け、世界の予想を再び覆し苦難を承知でEUを離脱する英断を国民投票によって示して見せた。今の日本が変革を恐れるばかりに、世界から遅れをとり始めている事とは対照的な出来事である。

最近のニュースに、近代の南極の探査活動を主導してきたオーストラリアが、新たに乗り込んできた新参者の急激な増長に危機感を募らせているとの報道があった。日本も南極探査では、一歩先に踏み込んだ国の一つだが、今では影も薄く、ここでも物量にものをいわせて拠点を拡大させているのは中国、そしてロシアだ。主な目的は、日本の気象、環境観測とは異なり、埋蔵されている資源の独占的な開発。先人が打ち立てた協定など見向きもせず、虎視眈々豪腕で事を進めている。

日本は財政破綻、もしくは他国からの侵略を受けるまで、目を覚ませないかもしれない。国を守り、民の生活を豊かにする為に命を賭し、礎となった靖国に眠る英霊は、日本の現状をどう思うことであろうか。

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